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「ふう」
眠れない。
とりあえず家でゴロゴロしても眠れないし、さぼり癖は付いているが、たまには学校へ行くのもいいだろう。もしかしたら退屈な授業聞いて眠れるかもしれないし。
「出席を取るぞー」
いつもの風景。変わり映えのしない毎日。それでも少しずつみんな歳をとっていってることに気づいていない。そんな朝の風景。
「川野ー。川野―?お、川野は休みか?」
川野。羽山と同じクラスメート。羽山と同じでクラスから浮いている存在。誰からも特に声をかけられず、静かに空気のように佇んでいるようなやつ。そして、なぜか羽山と気が合う。
「なんだいねーのか。珍しい。これは今日一日が退屈な気がしてきたぞ」
川野を学校にいる間の退屈しのぎにしか思っていない羽山だが、どうせあっちだって同じことだ。お互いさまというやつだ。まあそれでもたとえ羽山がいなくてもしっかりと学校へ行く川野には頭があがらないのだが。
予想通り、学校での授業、休み時間すべてにおいて羽山にとって退屈なものになった。そして面白くもない授業を聞いてもちっとも眠くなりはしない。
「これなら羊数えてたほうがまだましかもしんね・・・」
あの時は本当にひどい目に合っ(orわされ)たと思っている。二度と数えてやるもんかとは思ったがこれほどすることもなく時間を垂れ流しにしてしまうと、あっちのほうがまだましのように思えてしまう。
放課後。夕焼けの光が差し込む教室には、羽山だけしかいない。さっさと帰ればよかったものだが、今日の選択の反省を行っているうちにクラスの奴らは部活なり帰宅なりで教室を出ていったようだった。
「結論」
そう言って、一人教室の中で羽山は喋る。もちろん誰も聞いてはいない。
「一人で学校に来るのは予想以上に駄目だな」
そして教室には誰もいなくなった。
repeat hologram dreams
時刻は午前3時。ごろんと寝返りをうって、目を閉じる。
「羊が一匹、羊が二匹、・・・」
暗闇の中に柵を作って、羊を思い浮かべていく。ぐるぐるぴょこぴょこと、頭の中を白い綿菓子みたいなお羊が駆け回っていく。
「・・・、羊が763匹,羊が764匹,羊が765匹、羊が766匹,羊が777匹、・・・あれ?」
羊が出てこない。
「羊が777匹・・・かわいい羊が777匹・・・キュートな羊が777匹っ!」
出てこない。
羊が出てこなくなった。こんな事態が来るとは思っていなかったが、これはこれで困る。眠れないじゃないか。
「羊は776匹で全部ですよ」
振り返ると、最後の766匹目が、ちょこんと立っていた。
「え、そういうもんなの?」
「残念ながら、そういう仕様です」
「仕様ですか、って納得できるわけあるか!俺は寝なきゃいけないの!今すぐ寝たいの、夢見たいの!」
「無理だと思いますけどね。」
776匹目はふてぶてしくふんと鼻息を鳴らす。
「じゃあ、別のやつ数えればいいじゃないですか。そもそも何で羊である必要があるんですか。数えられればい問題ないと思いますがね」
「なんか見た目に反して全然かわいくない羊だな!」
「これでも貴方が呼び出した羊ですけどねっ!」
にやりと笑う。その頭をがっしと掴んで壁に向かってぶん投げる。壁に柔らかくぶつかった後ていんていんと床を転がって、またしてもにやっと不適に笑う。だめだ。これ以上こいつの相手をしてもだめな気がする。
「もうおまえなんて知らん!これからはウサギを数えることにする!」
「しかし何でウサギなんか。十五夜ってもう終わりましたけど?」
「ばーかそんなん俺が卯年だからに決まってるだろ」
「けっ」
まあやるだけやってみては、と文句を垂れつつ羊は部屋の片隅でおとなしく丸くなっている。悪あがきを傍観することを決め込んだようだ。
「ウサギが1羽、ウサギが2羽、・・・」
もう頭の中は、羊とウサギがわらわら動き回って大変なことになってしまっている。
「ウサギが、568羽、ウサギが569羽、ウサギが570羽、・・・ウサギが570羽・・・お願いだからウサギが570羽」
「ウサギも打ち止めだってよ」
「だまれ」
「で、次は何を数えるの?」
「もう知らんわ。どうでもいいわ。あきらめたわ」
「いやいや、たかが二種類数え上げただけであきらめるとはそんなもんか」
「あん?」
「小さい奴だなと言ってるんだよ」
「こ、このやろう」
握りつぶそうとして伸ばした手に776匹目は答える。
「いやね、他にもっと数えたら眠れるかもしれないのにそれをあきらめるのか、と聞いているんだよ私は」
「ぐ」
乗せられるな、絶対こいつはそんなこと微塵にも思ってないぞ。
「でも眠りたいんだろう?」
そうだ、いいかげんに羽山は眠ってしまいたい。
「それなら頑張れよ」
「くそ、お前に言われたかないわ」
悪態をつきながら羽山は腹をくくった。
「よし、それじゃ目につくもの手当たり次第に数えるぞ」
「おう、そのいきだぜ、旦那」
そうして勢いよく窓のカーテンを開ける。
「朝日が一つ!」
repeat hologram dreams
「学校へ行くか」
とりあえず家でゴロゴロしても眠れないし、さぼり癖は付いているが、たまには学校へ行くのもいいだろう。もしかしたら退屈な授業聞いて眠れるかもしれないし。
「出席を取るぞー」
いつもの風景。変わり映えのしない毎日。それでも少しずつみんな歳をとっていってることに気づいていない。そんな朝の風景。
つまらない。授業もいつも通りでつまらない。退屈な休憩時間。だから羽山は寝たふりだけでもしておくことにする。もしかしたらこのまま眠れるかもしれないという淡い期待を抱きながら。
そうして机に突っ伏す羽山にさっそく後ろから声がかかる。
「お、羽山君が寝てる。めずらしい」
川野だ。声だけでもわかるが、そもそもこんなやつに話しかけるやつなんてのは限られている。
「・・・いやね、とりあえず目だけでもつぶってみようかなと思って」
「いやそれだけじゃなくて学校に来てること自体が珍しいんだけどね」
「ずいぶんとひどい言われようだな。ま、当たってるから仕方がないんだけど」
机に突っ伏したまましゃべる。
「それはさておき、今日のは考えたのか、考えてないのか分からない結論だね」
「まあね。原点回帰ってやつですよ」
「うわあ早くもネタ切れの予感」
「うるさいわい」
でも、と川野は羽山の前の机に座る。
「なんでそうやって眠れなくなったのか、その原因を考えようとかは思わないの?」
「・・・原因、ねえ・・・」
そもそもいつ頃からこうなったのかどうにも思い出せない。そのためにその原因をたどるのは無理な気がする。
「うーん、発想の転換っていうかなんというか。きっかけでもあればすぐに見つかりそうな気もするんだよね。人間難しい問題にぶち当たってるときほど、いったん転がると一気に解決することもあるわけだし」
「そんなきっかけがあればすぐに思い出してる気もするんだけど」
きっかけねえ。
「あ、先生きたよ」
また今回も眠れなかったね。そういって川野は自分の席に着く。
「・・・これは・・・・・・カルビン・・・」
前で黙々としゃべっている先生の話を必死にノートに書き写す生徒たち。
そうしているうちにうつらうつらと眠気が襲ってきた。
「!?」
眠いぞ。なんでだ。今まで眠くなることなんて無かったはずなのに。
―その原因を考えようとかは思わないの?―
川野の言葉が改めて耳を打つ。
「原因って・・・」
時刻は15:40分くらい。別に眠たくなってもいい時間帯ではあるのだが・・・
「羽山、どうした。そんなに先生の授業がつまらんか」
「あっ、いえすいません」
ぼんやりした思考もそれで打ち止め。眠気が吹っ飛んでしまった。
「何やってんのよ。らしくないねえ」
放課後。教室に残っているのは羽山と川野の二人だけ。他のやつらは全員部活なり、帰宅なりしてしまっている。
「聞いてくれ。珍しくさっきの授業がとてつもなく眠たかった」
「え、ほんと?おめでとう!授業中だったのが残念だったね」
「しかし原因も何もよくわからないんだけど」
「でも眠くなった。それにはやっぱり何か理由があってしかるべきだと思う」
「うーん、やっぱり分からんなあ」
「ま、落ち着いて考えてみたらいいんじゃない?最初に戻ってもう一回見つめなおしたら?」
「それこそ原点回帰じゃないか」
「そういうこと」
灯台もと暗しって言うでしょ?そういって川野は下校の準備を進める。
「ああ、なんか今日はもうあのとき以上に眠くなりそうにない気がする」
「これまでで一番ゴールに近かっただけ残念だねえ」
「あ、やっぱりそう思う?」
「うん。羽山君が眠くなるとか前代未聞過ぎるもん」
なんかひどいなその言われよう。
教室を出ていく前にいったん振り返って、
「どつぼに嵌まらないように気をつけてね」
「へいへい」
そうして、教室には羽山一人が残された。
「原因、きっかけ・・・やっぱり思いだせないな」
あと一歩が思い出せないが、ふとしたことで見つかることなんだろうと、そんな気がしてならない。
「まあ、今日はもういろいろ考えるの疲れたし、明日でいいや。明日には分かりそうな気がするし」
そうして、教室には誰もいなくなった。
repeat hologram dreams
公園まで歩いてみることにした。
時刻は夕方。横断歩道を渡るところで、川野に会った。
「おお、川野じゃないか」
「ん?あれっ、羽山君だ。めずらしいね、こんな時間に」
川野。クラスメイトにしてクラスの中でも目立たない部類に入る彼女だが、なぜかよく羽山とはウマが合って面識があるのだった。
「あれ、お前学校は?」
「そういう羽山君こそ」
「おれはいつものことだからいいんだよ」
「このさぼり魔め。眠れないんだったらおとなしく学校行って勉強しなよ」
「まあね。でもそれも面倒臭いというか。昼寝しようと思ってたんだけど、いざ横になるとこれが眠くなくなるんだよな」
「あっ、それ分かるかもー」
くすくすと笑って「それで散歩でもしてるの?」と川野は尋ねた。
「まあ、そんなところ」
「今日は正しい時間に来たんだね」
「・・・ああ」
「思い出した?」
「いや、それは分からないんだけれども、なんていうか今日はここに来なくちゃいけない気がしたというか・・・」
そう言って横断歩道を渡ろうとする羽山の手を引っ張る。
見て、と指をさす。
「あれ、赤?今青じゃなかった?」
「寝ぼけてるの?」
と言いつつ微かに笑う顔はどこかやはり恐怖を感じるものを持っていた。
「この前、ここ最近で初めて眠くなったっていったよね?」
「ああ」
「その時間覚えてる?」
はて、いつだったか。
「夜じゃなかったと思うけれど・・・昼の三時くらい?」
「15:40分のあたりよ」
「なんでお前がそんなに詳しく知ってるんだよ。羽山マニアですか」
「・・・・・・」
うつむいたまま川野は黙り込んでいる。何やら様子がおかしい。
「あと、10分ってところか」
「ん?何がだ?」
「15:40分までの時間」
そして、
そういう川野の声はいつになく羽山の耳に浸透してきて、
「私たちが事故に遭遇する時間。そしてあなたが死ぬ時間。私が死ぬ時間。そのタイムリミットが、あと10分」
「は?」
目の前の彼女は何を言ってるんだ。おれが死んだ?こいつも死んだ?どういうことだ?だって川野も俺も今こうしてここに、
「一日がね、終わらないの」
そう言って川野は横断歩道を見つめている。自分の死に場所を懐かしんでいるように見えた。
「一日が終わるでしょ。そして朝起きたらまた同じ一日が始まってるの。当然でしょう、だって私たちには明日がないんだから」
「ちょっと待てよ。状況を整理させてくれ。俺たちが死んだでもなぜかこうして生きてる。そして同じ一日を繰り返してる。そう言いたいのか、お前は」
「ちょっと違うね。私たちは生きてない。ずっと夢を見ているのよ。これから10分後、いえ何年前かしら・・・あの時私たちは死にたくなかったんでしょうね。その気持ちが届いたのかしら、死ぬ瞬間のちょっと前、同じ時間にずっと捕らわれてしまった」
「はっ、そんな・・・そんなことが」
現に起きてるじゃない。そう言って川野は自嘲気味に笑う。それに、
「それになぜか羽山君は気付いてないみたいだし。なぜか私だけはこのことを覚えてるし。この話を羽山君に話したことだってあるけれど、羽山君、全然信じてくれなかったし。この違いは何なんだろうって思ったわ」
「そうだよ・・・なんでお前だけが覚えてるんだよ」
「飽きたの」
とても疲れた声。
「もう同じ一日を繰り返すこと、飽きたのよ。私だけでも抜け出せないかって思ってたけど、無理みたい。一回私一人でここに来てわざわざ事故に会ってみてもダメだった」
つまり。
本当にこの悪夢を抜け出したくば、もう一度あの状況を再現するべきなのだと、彼女は言っている。
「そう。そういうわけだから、私はあと・・・5分後かしら。死ぬわ。あなたはどうするの、羽山君?」
残された時間はもうそんなに残っていない。
「眠りたいんでしょう、羽山君?」
1.もっと別の方法があるんじゃないのか?
2.本当に眠れるんだろうな?