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私は乙女に軽く手を振ってみた。乙女は少し驚いた顔で控えめに手を振り返した。そして、先に席に座っていた友達の所へと小走りに去っていった。
「なあ、失敗したっぽいんだけど」
「さあね、それは彼女のみぞ知るところだよ。まあ友人として言わせてもらうと、押しが一つ足りない気がするけどね」
「うるさいわい。確かに一歩は踏み出したんだから、それでいいじゃないか」
「その一歩を踏み出す方向が間違ってなければいいけどね」
「ぐっ」
「まあ、それはそれはさておき、さっさと作戦を立てるぞ。なにしろ我々には時間がないのだ」
「正確には、お前だけな」
結局、私が思いついた作戦は、「出来るだけ乙女に接触を試みる」と言うことに落ち着いた。そこから先は、出たとこ勝負だ。リスクを負わずして、おそらく得るものは無い。
しかし時間も無いのは事実だ。実際、リミットまで一週間を切って週も後半だ。
「守備は順調かい?」
「うむ、順調に切羽詰っている所だ」
教室で、一つの机で向き合って友人が経過を尋ねて来た。
「あー、早く当日にならないかなあ、お前の無様な姿が今から目に浮かんで大変なんだよね」
「ふん。あとで吠え面かいても知らんぞ」
「じゃあ、そんなお前にプレゼント。ほいよ」
ぽいっと投げ出された物を手に取る。生物の教科書だ。裏を見ると、かわいらしい字で乙女の名前が書いてあった。
「これ、どうしたんだ?」
「ん、さっき移動教室で授業あったときに偶然彼女忘れて行っちゃったみたいなんだよねー」
「・・・お前。そんな偶然あるわけなかろうが」
「まあまあいいじゃない。俺はたまたま落ちていた教科書を拾った。でたまたまお前がいたから、お前が拾ったことにした。そういう訳だからさっさと行って来い。長引けば長引くほど怪しまれるぞ」
「お、おう」
しかし、乙女の所有物をくすねるとか、どれだけ手グセが悪いのか呆れてしまう。
「あの、これ」
「あ、それ!」
乙女が驚いた顔で、教科書を受け取る。
「うん、さっきの教室に落ちてた」
「拾ってくれたんですか!ありがとうございます」
クラスメートにも丁寧な言葉遣い。これは断じて乙女との距離が遠いという事を示しているのではない。おそらく。
「・・・うん、それじゃ」
間が持たない。
「はい、ありがとうございましたー」
こうして、私は乙女に教科書を届けるという大役は見事に果たしきった。
・・・訂正しよう。彼女との距離は素晴らしく離れている。
ついにこの日がやってきてしまった。結局乙女とはほとんどと言っていいほど進展していない。それでも最後の望みを託して、私は学校へとやってきた。
一番乗りで教室に入り、そして、私は気付いたのだ。
「そういえば・・・・・・今日は、土曜日か・・・・・・」
最大のミスである。やはり私はここぞというところで機会に恵まれていなかったのである。
「ほれみろ。俺の言った通りじゃないか」
穏やかな朝日の射す静かな教室で、私は友人からの電話を受けていた。
「ああ、そうだな。お前の言ったとおりだ。所詮俺はダメだったのだ」
日差しは暖かかったが、おそらく最後だったチャンスを逃した私の心は酷く陰鬱だった。
(BAD END)